![]() ロックンロールというものがこれほどまでに優しく、そして愛おしく思えるなんて…。いや、前々から思っていたけど、くるりというアーティストがそんな感情を僕に届けてくれるなんて思いもしなかった。 このアルバムを通して聴くと、いかに巷に溢れている音楽というものにいらん無駄な音がぎゅうぎゅうに詰め込まれているかがわかるだろう。いや、もしかしたら、あまりにも音数が少ない音像にインパクトを受けずにさらりと聴き進んでしまうリスナーもいるのかもしれない。でも、そうじゃない。彼らが憧憬の念を抱いている先人達のレコーディング手法を手に入れて、表現した結果の音。それが「NIKKI」というアルバムの音。ステレオ。サラウンド。コンプレッサーいらず。生音? ライブ感? そんなんでもない。アナログレコーディングが気持ちいい? でもない。様々な音楽的手法を経験した彼らだからこそ為し得た、純度の高いロックンロール。シンプルさの中に隠された様々なマジック。 先行シングルが4曲も収録されているという前情報を知ったとき、とても不安になった。彼らは、今までなにかしらのタイミングで先行シングルとして、先に用意されたアルバムを度外視するかのような強力なハイパー・チューンをリリースして来たからだ。でも、そんないらん心配も無駄骨となった。「Birthday」「Superstar」「赤い電車」「Baby I Love You」。この既存の楽曲が収録されていながらも、「NIKKI」というアルバムが巧妙に、絶妙に成り立っている。それは、それ以外の楽曲達。すべてが、それらの先行シングルに負けじ劣らずの楽曲の力が漲っているからだ。しかも、素晴らしき楽曲が並んでいるにもかかわらず、アンバランスなアルバムになっていない。とてもバランスのとれた作品として成り立っている。まさにくるりでしか為し得ないマジック。 歌詞が凄い。この、凄いという物言いは、“意味あるべき言葉が巧みにアーティスティックに表現されている”という意味ではない。むしろ、意味のない言葉が多い。それと、肩を並べるかのように単刀直入な言葉が並ぶ。「NIKKI」(日記)というタイトルが象徴しているかのような、普段着の言葉。京都、東京、ロンドン。どこにいようが、そこにいた自分の感情をそのままダイレクトに無防備に歌詞に落とし込む。簡単なようで難しい表現方法。 アルバムのジャケットの表記がQuruli「NIKKI」となっている。これは欧米の音楽シーンに向けてのアティテュードとも思える。今更言うまでもないが、くるりは海外での活躍もかなりある。それは、言語を超えたソングライティングが島国を越えて伝わった、ライブパフォーマンスが伝わったということだろう。が。このアルバムは、さらにそこに向けてのベクトルがビルドアップされている。“お祭りわっしょい”って、ね。あそこのフレーズ。凄く違和感を感じるよね。こっ恥ずかしい。でも、そのフレーズ、欧米の日本語圏外の人たちにはとても日本人の土着的なフレーズとして新鮮に響き渡るんだろうと思う。 しかしまあ、このアルバムは、シンプルでありながら、掘り下げれば掘り下げるほど様々な解釈が生まれ出てくる。「『OZ全曲解説』」なんていうことをやっている人間として、この「NIKKI」というアルバムも、そういう形で細部まで様々な言葉を添えて語りたい欲求がじわじわと。だって、「冬の亡霊」の後に、タイアップ曲だった「赤い電車」が流れ出してもなんの違和感も感じないんだよ。しかも、その後の、「Long Tall Sally」への流れもごく自然。で。で。で。自然でありながらも、1曲1曲を取り上げて語るのも出来る。しつこいけど、本当に、1曲1曲に込められたものを解剖してしまいたい気になっている自分がいる。 アルバム全部を聴いても、全13曲、約47分。短いよね。でもね、“さらっと聴き流すなよ”なんて言いたくない。“さらっと聴けるよね”とも言いたくない。この辺は聴き手のライフスタイルに任せたい。が、ロックンロールのマジック、ポップ・ミュージックのマジックは、3分強もあれば十分だということを改めてくるりが現世に証明してくれたことだけは理解してほしい。 ビートルズだ。これは。いや、ごめん。言い過ぎだろうよ。いや、でも、言わせて、ね。ビートルズというバンドの楽曲は、みんなが知っているはず。しかし、アルバム単位でしかと聴いたことがある人はそうはいないはず。時系列をとっぱらって、なんかしらないけれど、ビートルズの楽曲はばらばらで耳にしていることが多い。そいういうこと。だ。彼らが作り上げたアルバム。なんでもいいから聴いてほしい。「ラバーソウル」でもいい。「リボルバー」でもいい。いや、「サージェント〜」や「ホワイトアルバム」やらの後期のアルバムはいらない。このアルバムをどうのこうの評価したい今は。出来れば、「ヘルプ」辺りから、「リボルバー」までの中期のビートルズのアルバムのどれかを手にして聴いてほしい。それが一番分かりやすい。 「(It's only) R'nR Workshop!」。最高だ。音楽愛が、彼らの音楽愛が、大多数のリスナーに向けたラブソングへと移り変わる。ちなみに、そのまままた、アルバム冒頭の「Bus To Finsbury」を聴き始めてみよう。どう? また始まるでしょう? 「NIKKI」というアルバムに込められたロックンロールへの愛が溢れだしてくるでしょう? わざと、拙い文章として書き連ねました。アルバムの解釈が飛び飛びになっているはず。切り口が散文的な感じになっていると思います。でも、それがこのアルバムを象徴しているのかもしれません。 売れるといいですね。このアルバム。
by allisloveisall
| 2005-11-27 03:15
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